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「古本でも新書でも、なんでも好きな本を選んで来て。それでコラム書いてもらうから___」
もしこう言われたとき、みなさんは一体どんな本を選びますか?
新人研修のとある一日
京橋紙業に入社してはや1年が経とうとしています。
初めまして。Wです。
このコラムを書くという指令が私たち新人に下されたのは、入社してすぐの研修中のことでした。
“紙の卸商として興味をそそる本を選ぶ”というのが大前提にありますが、兎も角「なんでも好きな本を選んでいい」という言葉は、本が好きな私にとってこの暑い夏に飲むキンキンに冷えたアイスコーヒーに勝るとも劣らないステキな響きを持っておりました。
研修の舞台は・・・
舞台は夏の陽射しが降り注ぐ本の町、神保町。
私たちは1時間という制限の元、様々なジャンルの本屋が並ぶ街に駆り出されます。
これも良い、あれも良い。
高々と積まれたお宝の中を巡っていき、私はついにその本を見つけます。
いえ、探していた、と言った方が近いかも知れません。
夏目漱石『草枕』
私の敬愛する夏目漱石先生の後期3部作の一つであり、漱石先生の実体験を元に書かれた作品です。
どうでしょうか、このボロボロ具合。
元々あったケースはなくなり、表紙も擦り切れ、紙は日に焼けてしまっています。
それもそのはず、なんとこちら大正4年に刷られた活版印刷の本なのです。
この本は今まで様々な人の手に渡り、身を削りながら令和の時代まで辿り着いたんですね。
なぜこの本を選んだのか
さて、なぜこの本を選んだかと言いますと、
この本は私のような文豪好きからすると、大正時代に刷られた珍しい本で、少しでも漱石先生が生きた時代に近付ける特別な本だからです。
この時代に生きた人々や、この素敵な装丁を設計した人、漱石先生の考えを古びた紙と活版の文字の凹みを通して感じます。
小説でも手紙でも、一切れの紙に目には見えない“誰かの想い”が乗り、それを感じることで“紙そのものの魅力”が増すのではないでしょうか。
道草にもこんなセリフがあります。
『世の中に片付くなんてものは殆んどありゃしない。一遍起った事は何時までも続くのさ』
人が人を想う気持ちが絶えない限り、紙の出番もまだまだ絶えないと信じたいですね。
ぜひ機会があればみなさんの好きな本もお聞きかせ下さい。
おわりに
「古本でも新書でも、なんでも好きな本を選んで来て___」
もしこう言われたとき、みなさんは一体どんな本を選びますか?