京橋・小川(以下、小川): どうも、今日はよろしくお願いいたします。
神戸派計画・武部氏(以下敬称略): よろしくお願いします。
小川:今回お話を伺う前に、改めまして突然の取材申し入れに応えていただきまして本当にありがとうございます。
武部:いえいえ。よろしくお願いします。
小川:以前ISOT(国際文具事務機展)の神戸派計画さんのブースでお話を伺ってから、いつかはじっくりとお話を伺いたいと思っておりました。
小川:このコーナーでは最初に写真撮影を行っております。...(数ショット撮影)...ご協力感謝いたします。それでは、始めたいと思います。まず伺いたいのは「神戸派計画」の始まりについてです。神戸派計画さんのウェブサイトにも掲載されていますが、このコーナーの読者のためにお願いします。
武部:ブランドの立ち上げは2011年の11月です。万年筆専用紙を使用したノートが初めての製品になります。2007年に行われた「神戸セレクション」にノートを出展したことから始まっています。 (編注:「神戸セレクション」...神戸らしいお洒落で質の高い商品を公募・選定。インターネットモールや各地の百貨店等で展示・販売会を実施することにより、神戸経済の活性化と新たな神戸ブランドの創出を目指す...同ウェブサイトより転用...というもの。事業公益財団法人 神戸市産業振興財団が主催している)
小川:ノートの出展から始まったのですね。ちなみに、どのようなノートを?
武部:本文にバガスP70を使用したノートです。数多くの用紙を試し書きした結果、一番書き味が良かったのがバガスP70でした。
小川:バガスP70は風合いもあっていい紙でした。書き味もよかったとは知りませんでした。でも、あの紙は確か廃品に...
武部:はい。バガスP70が廃品になり、A-planで作ってみたのですが、比較すると書き味が今一つでした。
小川:なるほど。
武部:書き味を追求していった結果、2009年にはLiscio-1(リスシオワン)という万年筆専用の紙を開発するに至りました。
小川:専用紙ですか! かなり思い切りましたね。紙を扱う身としては特抄と聞くと血が騒ぎます(笑)
武部:静岡市にあるメーカーさんにお願いしまして。「いいもん作りたい」という気持ちで開発をお願いしました。その紙を使って、神戸派計画としてリリースしたのが「CIRO+」(シロ・プラス)でした。
小川:2011年のブランド立ち上げの際、ウェブサイトには「ひっそりと...」と記されています。どこか店舗販売はなさっていたのですか?
武部:神戸元町のPen and messageで販売していました。
小川:なるほど。今、お話に出てきた「CIRO+」という製品についてもう少し伺わせてください。この製品、なかなかすごい発想ですよね。実際に購入して使用してみたのですが、イメージしていたよりも罫線が見やすかったです。しかし書いた文章を読み返す時には気にならない。罫線を白にしてしまうとは。
武部:書く際にガイドとなる罫線は、読み返すという行為には邪魔になります。万年筆のユーザーさんは日記や詩作など読み返す方が多いのです。小説や雑誌の行間にいちいち罫線があったら読みづらいですよね。この製品のコンセプトは「美しく読む」です。書く際、とりわけ美しく文字を書こうとすると必要な罫線をどうするのか。その相反する要求に対する答えとして「白い罫線」に至りました。 (編注: この「CIRO+」の開発に関わる苦労話やコンセプトは神戸派計画ウェブサイトにとても詳しく載っています。開発コンセプトとこの白い罫線にまつわる苦労話、クロス装丁版の表紙の白クロスのお話は是非一読してみて下さい。)
小川:その「CIRO+」に採用されたLiscio-1とはまた異なった専用紙がございますよね?
武部:グラフィーロですね。これはLiscio-1を抄造していた抄造機が停止することになってしまいまして。やむなく他の工場で専用紙を開発しました。
小川:それが「ぬらぬら」の...
武部:ええ。書き心地「ぬらぬら」のグラフィーロです。書き味を徹底的に追求していったのですが、ずいぶん難航しました。全ての要求に応える紙がなかなか仕上がらず、最終的に乾きに対して目をつぶることになりました。
小川:いや、この書き心地は素晴らしいと思います。好みもあると思いますが、引っかかりすぎず、つるつるし過ぎず。試し抄きからどのくらいのお時間がかかったのでしょうか?
武部:約1年ほどかかりました。紙の開発だけで1年。これはリリースまで一番時間がかかったケースですね。
小川:最終的に紙を確定する時も大変だったのではないかと...
武部:朝メーカーの工場まで出向き、すぐ終わるかと考えていたのですが、あれ、違う、これも少し違う、となかなか確定できず...気が付いたら夜までかかってしまいましたね。
小川:お尋ねしようと思っていた「開発からリリースまで一番時間のかかったアイテム」について、期せずしてお伺いできました。それでは、開発で一番苦労したアイテムはどの製品でしたか?
武部:orissi(オリッシィ)ですね。
小川:グッドデザインのアワードを2012年に受けていますね。追ってチェックするメモ帳という機能がスマートにデザインされていてとても印象的です。
武部:罫線とギザギザがぴったり合うというのも難しいのですが、そもそもこのギザギザは抜き加工で行っています。この抜き加工が一番難しかったですね。当初のデザインは加工所に「無理だ」と断られたほどです。
小川:色のグラデーションも綺麗ですね。これは...色上質紙ですか?
武部:ええ。どこにでもある素材ですが、菱餅をモチーフに3色、3段重ねにしてみると安っぽくない豊かなデザインになりました。
小川:話は変わりますが、万年筆向けのアイテムが先日、ISOTで日本文具大賞を受賞なさいましたね。
武部:SUITOという製品です。万年筆を使う方の中にはペン先が汚れても気になさらない方もいらっしゃいますが、そうでない、必ずふき取る方々もいらっしゃいます。そのペン先をふき取る作業を「美しい所作」にするのが、SUITOです。
小川:...この吸取紙のサイズ、もしかしてかなり試されたのでは?
武部:ええ。それこそ1ミリ単位で試作して、うまくふき取れるか自分でテストしました。担当の社員が大丈夫、と言っても手が汚れてしまうなど不安を感じた寸法は要再考で。その結果落ち着いたのが製品になった24×48ミリの大きさです。
小川:なんと1ミリ単位でテストしていたとは驚きました。この製品の外見はとてもシンプルですが、製品名のロゴが金の箔押しですね。アクセントが効いていて素敵だと思います。
武部:はい。万年筆のペン先の金色のイメージと合わせています。
小川:製品のお話とは少し切り口を変えた質問になりますが、ステーショナリーを作るお立場から「紙」について、求めたいことはございますか?
武部:紙に機能が欲しいですね。ただ刷るだけの素材ではなく。
小川:機能ですか...たとえば、酸化チタンなどの光触媒を用いた「エアクリーンペーパー」や今は受注生産になっていると思いますが雑菌の増殖を抑える「抗菌紙ハロー」などが思い浮かびます。(伸びる紙、ウェイビーウェイビーも口にしようかと思った小川だが、何かこのまま暴走しそうな気がしてきたので自粛。この銘柄も生産終了しているし...)
武部:ええ。刷りやすい、加工しやすいというだけではない、プラスアルファの機能が欲しいですね。あとは、色のいいものが欲しいなと感じています。
小川:色のいいもの。色数ではなく...
武部:はい。たとえば綺麗な淡いピンクなど欲しいなと思ってもなかなか気に入るものがありません。
小川:なるほど。メーカーさんに伝えておきます。濃い赤や漆黒は続々とリリースされていますが淡いピンクは言われてみると確かに...
小川:...色で思ったのですが、よろしいでしょうか。
武部:はい、何でしょう。
小川:神戸派計画さんでは「ユニセックス」であることがコンセプトの一つになっておられると思います。ユニセックスを謳うアイテムは白系のものも多いのですが、一方で黒も多い気がします。神戸派計画さんでは白を中心に展開なさっていて、黒いアイテムは見かけませんが...
武部:いや、意識的に黒を避けているということはありません。そうですね、黒いアイテムに意識が向いていなかっただけです。意外と何年か後には「クロッシィ」なんて出ているかもしれませんよ?
小川:何かシュッとしたものが出てきそうな気配が。期待してしまいますよ?(笑)
小川:...最後になりますが、改めてこのコーナーを見ている皆さんへ一言お願いいたします。
武部:ありそうで、ない。こんなものがあったらいいのに、というアイデアがあったらぜひ聞かせていただきたいと思います。
小川:本日はお忙しい中、ありがとうございました。
武部:ありがとうございました。
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